まだ誰も起きていない。
静かだ。
コーヒーを淹れて、スプレッドシートを開く。
毎朝やっている。
毎回、同じ時期で手が止まる
収入がいつ、いくらになるか。
支出がいつまで、何が続くか。
資産がどう減っていくか。
並べていくと、ある時期だけ画面が重くなる。
60歳から65歳だ。
定年後の再雇用で、収入は半分以下になる。
でもローンはまだある。
生活費も変わらない。
またここだ。
毎朝同じ場所で、思考が止まる。
くっそ、と思う。
わかってる。わかってるけど、どうしたらいい。
数字が悪いわけじゃない。
でもここで、いつも止まる。
不安なのは俺だけなのか
妻はあまり気にしていないようだ。
老後の話をすると、「なんとかなるんじゃない」と言う。
根拠はない。でも妻はそう思っている。
俺には、そう思えない。
不安なのは俺だけなのか。
心配しすぎなのか。
それとも妻が楽観的すぎるのか。
わからない。
ただ、毎朝ここに座って、また同じ数字を見ている。
怖いのは全部じゃなかった
老後が怖い、とずっと思っていた。
漠然と、全部が怖かった。
でも計算を続けていて、気づいたことがある。
怖いのは全部じゃない。
あの数年間だけだ。
65歳になれば年金が始まる。
67歳になればローンが終わる。
その先のことは、まだ想像できていない。
問題はそこまでの5年だ。
収入は減っているのに、まだ縛られている。
それがわかった。
でも怖いのは変わらない。
わかったからって、消えるわけじゃない。
計算は不安を増やしていたんじゃなかった
計算するたびに不安が増す、とずっと思っていた。
でも違った。
怖い場所が毎回はっきり見えていただけだ。
漠然とした「老後が怖い」が、「60歳からの5年が怖い」になる。
それだけのことだった。
少しだけ楽になった。
気がした、だけだ。
翌朝また開いたら、やっぱり同じところで止まった。
ただ、「全部怖い」より「ここが怖い」の方が、まだましだと思っている。
今朝も開いた
妻はまだ寝ている。
子どもたちも、まだ寝ている。
コーヒーを飲みながら、また同じ数字を眺めた。
また同じ時期で、手が止まった。
妻みたいに「なんとかなる」と思えたら、楽だろうな。
でも思えない。
だから毎朝ここに座っている。
50代・2児の父・会社員。収入は大したことない。でも諦めない。悪あがきで豊かな老後を目指している。


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